アーシュラ・K・ル=グウィン / Ursula K Le Guin「夜の言葉 / The Language of the Night」

他人の言葉や考えに依存せず、自分自身の考えと存在の深い部分に手がかりを求める作家は必ず万人に共通の素材を掘りあてます。その作品が独自のものであればあるほど、それはどの人にとっても " 自分の体験を思い出させるもの " となるでしょう。「そうだ、もちろんあれだ!」作品のなかに自分自身の姿を、夢を、悪夢を認めた読者は言います。物語の登場人物、人物像、イメージ、モチーフ、プロット、出来事が、神話や伝説の素材と一目でわかる類似を示したり、まるでその複製のようにさえ思われたりするのです。作品には ------ ファンタジーの場合はそのままで、自然主義の作品では隠蔽された形で ------ 竜、英雄、探求、不思議な力を与える品物、真夜中の海の底の航海などが登場するでしょう。絵画と同様、物語においても、見慣れたパターンは浮き出して見えるようになります。



これは逆説ではありません。ユングの言うとおり、わたしたちがみな身体に同じような心臓や肺をもっているのと同様にみな心のなかに同じような竜を住まわせているとすれば、この前提からすると、いかに思索をめぐらそうと、新しい身体の器官を発明することができないように、元型を発明することはできないということになりそうです。でもこれは損失ではなく、むしろ勝利なのです。それはわたしたちがお互いに意思を通じあえること、疎外という状況が人間にとって決定的なものではないことを意味します。わたしたちには広い共通の基盤があり、その上に立ってわたしたちは理性を通じてのみならず審美的にも、直観的にも、感情的にも相まみえることができるのですから。   -   アーシュラ・K・ル=グウィン「夜の言葉  7 -

  SFにおける神話と元型」